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山形地方裁判所新庄支部 昭和57年(ワ)45号 判決 1984年11月30日

原告

後藤八太郎

ほか一名

被告

矢口克彦

主文

一  被告は原告後藤八太郎に対し、二五六九万五七八八円及び内金二三三九万五七八八円に対する昭和五七年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は原告後藤喜代一に対し、二二万四〇四九円及び内金一九万四〇四九円に対する昭和五七年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、原告後藤八太郎と被告との間においては、同原告に生じた費用の二分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とし、原告後藤喜代一と被告との間においては、同原告に生じた費用の五〇分の一を被告の負担とし、その余は各自の負担とする。

五  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告後藤八太郎に対し、四五六四万六五六三円及び内金四一六四万六五六三円に対する昭和五七年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は原告後藤喜代一に対し、一一九七万五三九四円及び内金一〇九七万五三九四円に対する昭和五七年一〇月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時

昭和五六年一〇月二〇日午後六時一〇分ころ

(二) 場所

山形県尾花沢市大字名木沢字川前九九八の一番地先路上(国道一三号線)

(三) 事故の態様

原告後藤喜代一(以下「原告喜代一」という。)が、助手席に原告後藤八太郎(以下「原告八太郎」という。)を同乗させて、普通乗用車(以下「原告車」という。)を運転し、右(二)の場所を新庄方面に向い進行していたところ、被告は、普通乗用車(以下「被告車」という。)を運転して同所を山形方面へ向い進行中、右折すべく、その先行車の背後から急に反対車線へ進入したため、正面衝突したものである。

(四) 被害の状況

(1) 原告八太郎については、右眼球破裂、続発性緑内障、眼瞼はん痕、前頭部挫創、涙小管裂傷、眼球労、上下眼瞼癒着兼球結膜癒着、左眼結膜炎

(2) 原告喜代一については、眉瞼部線状はん痕、球結膜下血腫、眼球打撲、左上眼瞼線状はん痕の他、原告車が大破した。

2  被告の責任(民法七〇九条)

被告は、原告車が接近していて、右折することが不可能であるにもかかわらず、かつ、制限速度を超えて、その先行車両の直後を急に右にハンドルを転把して、反対車線に進入したため、原告車と衝突し、よつて、原告らに人損、物損を与えたものであつて、民法七〇九条によりその損害賠償をなす義務がある。

3  損害

(一) 原告八太郎分 合計四一六四万六五六三円

(1) 入院付添費 三万六〇〇〇円

一日三〇〇〇円の一二日間分

(2) 入院雑費 二万五六〇〇円

一日八〇〇円の三二日間分

(3) 通院雑費 三〇〇〇円

一日二五〇円の一二日間分

(4) 義眼代 二八万円

右眼球破裂のため、義眼を装着することが必要であるところ、平均余命一六・六二年のうち、三年に一度取替えが必要となる。従つて、一回七万円で今後四回取替えが行われる。

(5) 休業損害 七六万八二〇三円

原告八太郎は、司法書士であるが、昭和五六年一月一日から同年一〇月二〇までの二九三日間の収益(必要経費を除く)は、二七一万一八五二円であるところ、本件事故により、昭和五六年一〇月二一日から同五七年一月一二日まで八三日間休業した。

(6) 後遺症による逸失利益 四〇七五万三七六〇円

労働能力喪失率六〇パーセント(司法書士は、職業柄書類等を見ることが多いので、片眼喪失は、致命的である。一眼で見ると、眼球疲労を起し、ひいては、身体全体の疲労となり、根気がなくなつて、事務処理に重大な支障をきたすものであり、喪失率は、六〇パーセントが相当である。

平均余命一六・六二年、新ホフマン係数一〇・四〇九四(司法書士は、自由業であり、死亡時まで稼働可能である。因みに、事故時六一歳、平均余命一六・六二年であるから、七五歳まで生存とみて、同年の司法書士は、県内でも数例ある。)

昭和五六年一月一日から同年一〇月二〇日まで二九三日間の収益は、五二三万八〇〇〇円である。

(7) 慰謝料 六五〇万円

入通院 五〇万円

後遺症 六〇〇万円

(8) 損害の填補(既払分) 六七二万円

以上により、(1)~(7)を加え、(8)を差引くと、四一六四万六五六三円となる。

(二) 原告喜代一分 合計一〇九七万五三九四円

(1) 入院雑費 一万三六〇〇円

一日八〇〇円の一七日分

(2) 通院雑費 五〇〇円

一日二五〇円の二日分

(3) 休業損害 七六万五四一九円

三二歳の平均給与三三六万六〇〇〇円

本件事故により、昭和五六年一〇月二一日から同五七年一月一二日まで八三日間休業した。

(4) 後遺症による逸失利益 九三八万五八七五円

労働能力喪失率一四パーセント

労働期間は、六七歳までとして、三五年間の新ホフマン係数は、一九・九一七四である。

三二歳の平均給与は、三三六万六〇〇〇円である。

以上を計算すると、九三八万五八七五円となる。

(5) 慰謝料 二二〇万円

入通院 二〇万円

後遺症 二〇〇万円

(6) 物損 七〇万円

原告車は、本件事故により、修理代金七〇万円を要する損害をこうむつた。

(7) 損害の填補(既払分) 二〇九万円

以上により、(1)~(6)を加え、(7)を引くと、一〇九七万五三九四円となる。

4  弁護士費用 合計五〇〇万円

本件については、原告側において、示談接渉により解決しようと試みたが、相手方は、支払超過であるとして支払を認めようとしない。そこで、原告らは、やむなく弁護士による本訴にふみきつたものであり、よつて、次の弁護士費用の請求をなしうる。

(一) 原告八太郎分 四〇〇万円

(二) 原告喜代一分 一〇〇万円

よつて、原告八太郎は被告に対し、四五六四万六五六三円及び弁護士費用を除いた四一六四万六五六三円について、並びに原告喜代一は被告に対し、一一九七万五三九四円及び弁護士費用を除いた一〇九七万五三九四円について、各本訴状送達の日の翌日である昭和五七年一〇月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)及び(二)の各事実は認める。

同1(三)の事実のうち、原告喜代一は、助手席に原告八太郎を同乗させて原告車を運転し、被告は、被告車を運転して山形方面へ向け右場所を進行中の事故であることは認め、その余の事実は争う。

同1(四)の事実は知らない。

2  同2(被告の責任)は争う。

3  同3(損害)の事実のうち、各損害の填補((一)(8)及び(二)(7))の点は認め、その余の事実は知らない。

4  同4(弁護士費用)は争う。

三  抗弁(過失相殺等)

1  被告車は、本件事故現場の相当手前から速度を落とし、方向指示器をつけ右折の合図をして中央線に寄り、更に速度を落しながら本件交差点に進入し、右折態勢に入つていたものであり、被告車の先行車の背後から急に反対車線に進入したものではない。むろん、制限速度を超えて進入したものでもない。

2  車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点を通行するときは、当該交差点の状況に応じて、反対方向から進行してきて右折する車両に注意し、かつできる限り安全な速度と方法で進行しなければならないとされている。

しかるに、本件事故の発生については、原告においても、事故当時は夕暮時でもあり、被告車は前照灯をつけ更に右折の合図をしながら中央線寄りに進行してきていたものであるから、当然本件交差点の相当前から被告車に気づいてしかるべきであるのに、減速することなく漫然と進行し、本件交差点の直前に至つてはじめて発見し(前方不注意)、既に右折態勢に入つていた被告車に衝突した過失がある。

従つて、賠償額の算定にあたり、相当の過失相殺がなされるべきである。

3  なお、右過失相殺の主張を前提とすれば、原告八太郎に対して、被告及び原告喜代一は、いわゆる共同不法行為の関係にある。原告らが親子の関係にあることを考えると、原告喜代一の過失割合相当分を被告に負担させることは、信義誠実の原則に反するものと考える。従つて、原告八太郎の損害額の算定にあたつては、原告喜代一の過失割合相当分を減額すべきである。

四  抗弁に対する認否

全部認否する。

第三証拠

証拠関係は、本件訴訟記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  事故の発生(請求原因1)について

本件事故が発生した日時、場所((一)及び(二))については、当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第一ないし第一四号証、第二一号証、第三一号証、第三三号証、第三四号証の一、二、第三五号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二二号証の一、二、第二三ないし第二六号証、原告ら各本人、被告本人、証人矢口要の各供述並びに弁論の全趣旨を総合すると、請求原因1(三)(事故の態様)及び(四)(被害の状況)の各事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  被告の責任(請求原因2)について

右一記載の各証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、請求原因1(一)記載の日時ころ、業務として、被告車を運転し、同(二)記載の交通整理の行われていない交差点を、新庄市方面から大石田方面へ向け右折するため、同交差点の手前約三五メートル前後の地点にさしかかつた際、反対方向から同交差点に直進していくる原告喜代一運転の原告車を九五メートル前後先に発見したのであるから、同交差点で最徐行又は一時停止して、直進する原告車の通過を待つて右折すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、原告車の接近前に同交差点を右折しようとして、右折方向にのみ気を取られ、対面進行してくる原告車の動静注視を怠り、時速二〇キロメートル前後に減速したのみで同交差点に侵入右折しようとした過失により、本件事故を惹起したことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告が、本件事故につき、原告らに対し、不法行為に基づく損害責任を負うことは明らかである。

三  損害(請求原因3)について

1  原告八太郎分

(一)  入院付添費

前記甲第三五号証及び弁論の全趣旨を総合すると、同原告の入院付添費は、一日三〇〇〇円の一二日間分で三万六〇〇〇円と認めるのが相当である。

(二)  入院雑費

前記甲第三三号証、第三四号証の一、原告八太郎本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すると、同原告の入院雑費は、一日七〇〇円の三二日間分で二万二四〇〇円と認めるのが相当である。

(三)  通院雑費

通院雑費は、これを認めるに足りる証拠がない。

(四)  義眼代

原告八太郎本人の供述及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第三二号証、成立に争いのない甲第三八、第三九号証の各一、二及び弁論の全趣旨を総合すると、義眼一回取替分七万円として、四回行う必要があるので、合計二八万円と認めるのが相当である。

(五)  休業損害

原告八太郎本人の供述及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第二七号証の一、二、成立に争いのない甲第二八ないし第三〇号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告八太郎は、司法書士及び行政書士として、昭和五六年一月一日から同年一〇月二〇日までの二九三日間働き、必要経費を差引いたその収益は、二七一万一八五二円となつたが、本件事故により、昭和五六年一〇月二一日から同五七年一月一二日まで八三日間休業した。そこで、二七一万一八五二円掛ける二九三分の三六五掛ける三六五分の八三で、七六万八二〇三円となり、これが、同原告の休業損害と認めるのが相当である。

(六)  後遺症による逸失利益

前記甲第九ないし第一一号証、第二二号証の一、二、第二三号証、第二七号証の一、二、第二八ないし第三一号証、第三三号証、第三四号証の一、二、第三五号証、第三八、第三九号証の各一、二、原告八太郎の供述及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三六号証並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

原告八太郎は、本件事故により、右眼球破裂、左続発性緑内障、右眼瞼はん痕、全頭部挫創、右涙小管裂傷、右眼球労、右上下眼瞼癒着兼球結膜癒着、左眼結膜炎を負い、同原告の右傷害は、自動車損害賠償保障法施行令二条の別表「後遺障害別等級表八級」に相当し、これによれば、同原告は、その労働能力を四五パーセント喪失したものと認めるのが相当であり、また、同原告は、その本職が司法書士及び行政書士という自由業者であり、その職業の難易度、特にその司法書士及び行政害士という仕事の性質上、ある程度定型化されている部分があること、これまでの経験度等を総合すると、同原告の場合、七五歳まで稼働が可能であり、このことから考察すると、新ホフマン係数は、一〇・四〇九四とみるのが相当である。同原告は、昭和五六年一月一日から同年一〇月二〇日までの二九三日間において、司法書士及び行政書士の仕事から、総計五二三万八〇〇〇円の収入を得た。ところで、同原告は、自由業者であるところ、その所得が他の者の補助等の総体のうえで形成されている場合には、その所得に対する同原告本人の寄与部分を抽出し、これを以つて、同原告の逸失利益算定上の基礎となるべき収入とするのが相当である。そうすると、同原告は、その息子である原告喜代一を専従者として使つているのであるから、前記甲第二七号証の一、二によつて認められる専従者控除額の四〇万円は、右総収入から控除しなければならない。また、将来支出が予定されている経費を控除するのは不当であるが、その経費自体、事業縮小に伴い、少くてすむ。かような考慮を本件にあてはめると、右所得申告における必要経費が、二一二万六一四八円であるから、その三〇パーセント減の一四八万八三〇四円を以つて同原告の将来支出が予定されている経費、つまり、控除してはならない必要経費とみるのが相当である。

そうすると、同原告の後遺症による逸失利益算定上の基礎とすべき収益は、五二三万八〇〇〇円から専従者控除の四〇万円と必要経費減額分の六三万七八四四円とを差引いた四二〇万〇一五六円とするのが相当である。

右を計算すると、四二〇万〇一五六円掛ける二九三分の三六五掛ける一〇〇分の四五掛ける一〇・四〇九四で、二四五〇万九一八五円となり、これが、同原告の後遺症による逸失利益と認めるのが相当である。

(七)  慰謝料

原告八太郎本人の供述、弁論の全趣旨及び同原告の前記被害の状況を総合すると、同原告は、本件事故により、相当程度の精神的苦痛をこうむつたものと認められ、その受傷内容、治療経過、後遺症の程度等に照らし、本件事故により、同原告が受けた右苦痛を慰謝するために相当とする額は、入通院及び後遺症によるものを含めて、合計四五〇万円と認める。

(八)  抗弁について

被告は、原告車を運転していた原告喜代一にも過失があるのであるから、信義誠実の原則上、原告八太郎の損害額の算定上も原告喜代一の過失割合相当分を減額すべきであると主張するが、そのように考えるべき根拠はないというべきである。

(九)  損害の填補(既払分)

原告八太郎が、六七二万円の損害填補を受けていることは、当事者間に争いがないから、この分は、右損害総額(三〇一一万五七八八円)から控除すべきであり、結局、原告八太郎は被告に対し、右填補分を差引いた二三三九万五七八八円の支払を求めることができる。

(一〇)  弁護士費用

原告八太郎が、本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件記録上明らかであり、本件事案の内容、請求認容額、その他諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係にある同原告の損害として被告に負担させるべき費用としては、二三〇万円が相当である。

2  原告喜代一分

(一)  入院雑費

前記甲第二四ないし第二六号証、原告喜代一本人の供述及び弁論の全趣旨を総合すると、同原告の入院雑費は、一日七〇〇円の一七日間分で一万一九〇〇円と認めるのが相当である。

(二)  通院雑費

通院雑費は、これを認めるに足りる証拠がない。

(三)  休業損害

前記認定事実によると、原告喜代一は、原告八太郎の前記事業に専従していたものであるから、休業損害算定の基礎となる収入額は、男子労働者の平均賃金によるのが相当であるところ、原告喜代一の場合、これを年収三三六万六〇〇〇円とするのが相当であり、前記甲第二四ないし第二六号証によると、同原告が入、通院した期間は、合計一九日間であつて、同原告の仕事の内容から考えると、右期間以後はその仕事ができたものといわざるを得ないから、右一九日間を以つて休業期間というべきである。そこで、これを計算すると、三三六万六〇〇〇円掛ける三六五分の一九日で、一七万五二一六円となり、これが、同原告の休業損害と認めるのが相当である。

(四)  後遺症による逸失利益

原告喜代一の後遺障害は、前記認定事実及び原告喜代一本人の供述によつても、外貌に醜状を残し、長く見ていると、左眼瞼の傷がひきつるような感じになる程度である。同原告の仕事は、主としてタイプや原告八太郎の車での送り迎えであり、車の運転にも支障はなく、もともと外貌がみにくくても支障のないものといえるから、右障害を以つて、労働能力の低下があるということはできず、結局、原告喜代一の後遺症による逸失利益の主張は理由がない。

(五)  慰謝料

原告喜代一本人の供述、弁論の全趣旨及び同原告の前記被害の状況を総合すると、同原告は、本件事故により、結婚前であるのに、顔面にかなりの醜状を残し、他に職を求めるとしても、これが相当の障害になることが考えられるところからすると、大きな精神的苦痛をこうむつたものと認められるから、本件事故により、同原告が受けた右苦痛を慰謝するために相当とする額は、入通院及び後遺症によるものを含めて、合計一八〇万円と認める。

(六)  物損

原告喜代一本人の供述及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三七号証を総合すると、原告車は、本件事故により、廃車となり、その修理代金七〇万円相当の損害をこうむつたことが認められるので、同原告は、本件事故により、物損として、同額の損害を負つたものと認められる。

(七)  過失相殺

前記一(事故の発生)及び二(被告の責任)において認定した本件事故の態様に原、被告ら各本人の各供述及び証人矢口要の供述を総合すると、本件事故時には、被告においても減速したうえ、中央線に寄り、右折の合図もしており、また、原告車に対向する車が被告車のほかにもあつたのであるから、原告喜代一としては、本件事故現場で右折する車がありうることを予測すべきであつたというほかないので、本件事故が、被告の一方的過失によつて起つたものとみるのは妥当でなく、原告喜代一にも前方不注視の過失があり、前記本件事故における諸般の事情から考え、過失相殺として、原告喜代一の損害の一割五分を減じるのが相当と認められる。

そうすると、原告喜代一の右総損害額二六八万七一一六円から一割五分(つまり、四〇万三〇六七円)を減じた二二八万四〇四九円が残ることになる。

(八)  損害の填補(既払分)

原告喜代一が、二〇九万円の填補を受けていることは、当事者間に争いがないから、この分は、右損害総額(二二八万四〇四九円)から控除すべきであり、結局、原告喜代一は被告に対し、右填補分を差引いた一九万四〇四九円の支払を求めることができる。

(九)  弁護士費用

原告喜代一が、本件訴訟の提起、追行を原告ら訴訟代理人に委任したことは、本件記録上明らかであり、本件事案の内容、請求認容額、その他諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係にある同原告の損害として被告に負担させるべき費用としては、三万円が相当である。

四  結論

以上の事実によれば、本訴請求は、本件損害賠償金のうち、原告八太郎については、二五六九万五七八八円及び弁護士費用(二三〇万円)を除いた二三三九万五七八八円について、並びに原告喜代一については、二二万四〇四九円及び弁護士費用(三万円)を除いた一九万四〇四九円について、各本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年一〇月二六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき、同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大島哲雄)

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